Kamaseinu-v2

ついにまた自サイトで語る時がきたのだ。

Milk inside a bag of milk inside a bag of milk / Milk outside a bag of milk outside a bag of milk

アしました。

(!)ここから全てネタバレ配慮なし

少女の不安定な精神と視点による、異質で不穏なグラフィックやサウンドがとても魅力的でした。ホラー要素といえるものもありますが、そこまでびっくり系でもなく、どちらかというと陰湿な嫌さが目立つじっとりゲーという感じ。一番怖いのは意図されたホラー演出ではなく、少女と自分の噛み合わなさというか、こちらの質問に対する少女の荒唐無稽な返答かもしれない。

【inside】

基本的に自分でプレイするつもりのゲームは前情報を入れずやりたいので、例に漏れずこのゲームをプレイするときも続編がある、ということ以外何も知らずにプレイした。実際、やってみて3つしかない実績を手に入れた時、こちらはプロローグにあたる作品なのだろうと思った。

が、実際outsideをプレイしてから思い返すと完全にこっちが本編なのである。

というのが不思議な印象だった。圧倒的に説明不足で、情報不足で、ボリューム不足。なのに、考察の余地がありすぎる本編なのだと思った。

【outside】

insideに比べとっつきやすいビジュアルと説明的な内容のおかげでinsideの理解が深まったような気がする。が、核心に迫る内容まではいかず、こちらの想像を補足する程度というのがどこまでも上手いなと思った。

どのEDを見ても救いというものはなく、日常(絶望)は続く。

 

荒唐無稽な返答が怖いと前述したが、これの強さというのはさらに現実にも影響を与えるところでもあると思う。こういう疾患を抱えてる人はいるのだろうし、実際自分の目の前に現れた時にどう対応すればいいかもわからない。自分がそうならないとも断言できない。現実の怖さだ。インターネットで出会ったとしてもこちらの言葉は届かず、少女にはただの数列だと思われてしまい、孤独は解消されない。少女は痛みよりも孤独が怖いのに少女の夢見るEDは本当に孤独なものばかりだ。

このゲームの面白さのひとつに「語り手が信用できない」というのがあって、(情緒不安定で会話もうまくかみあわない相手をプレイヤーが信用などできるわけないのだが、)学校について少女にきいたとき、何度も同じ話をさせることで少女がだんだんと覆い隠したかったことが出てくる演出がかなりよかった。インターネットで出会って、唯一本物かもしれないと思えた友人は、少女に本当は何をしたのだろう?

精神疾患にも薬による副作用についても何もくわしくないのだが、少女の症状に麻薬中毒患者のそれと似たものを少し感じた。とにかく誰かに監視されているような気になるというやつだ。インターネットで出会った友人のせいでインターネットじゅうで晒され監視されるようになったのは事実か?妄想か?それすらこちらに委ねてくる。

もちろん私は少女を好きにも嫌いにもなれない。ゲームの中のとても冷たい回答をする「(少女の仮定する)プレイヤー」とまではいかないものの、同情・憐れみの感情が大半だ。

「プレイヤ ー(私たちのこと)」とは一体なにか? 少女の頭の中の都合のいい別人格? 少女の不安定さゆえか、少女にとって許し難い返答をすることもある。少女を執拗に問い詰めたり、貶めたり、はたまた単なる自分つっこみレベルのやりとりのときもある。薬を飲み、精神が安定していると存在する(らしいがそもそも薬はきいてるのか?プレイヤーがいることではじめて買い物が成功したのに、薬がきれたときの静寂とてんびんにかけてそちらをとるのは?)

少女について考えると現実に存在する友人について考えているような気持ちになる。少女の日常(絶望)が続くように、こちらの少女への想像も終わることはない。答えが提示されていないから。良いゲームでした、と言いたくても、『でした』と過去形で言うのが憚られるくらい『今も少女は苦しみ続けている』、という実感が残る。

ゲームの中の人間を現実世界で考え続けて良い、というのはどれだけ贅沢なことだろうか。